バレリーナ()とは | ニジエのエロ用語辞書『大性典』

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バレリーナ

 バレリーナ(ballerina)とは「踊る女性」を示すイタリア語で、一般的にはバレエにおける女性ダンサーを指す。ちなみに「踊る男性」のことはバレリーノ(ballerino)と称するが、日本国内では使用されることはほとんどない。

 現代におけるバレエ用語の大多数はフランス語由来のもので占められているが、踊り手の呼称にイタリア語のバレリーナが使用されているのは、バレエの発祥地がルネサンス期のイタリアであり、その後フィレンツェの名門メディチ家の娘カテリーナがフランス国王アンリ2世の妃となったことで、この宮廷演芸がフランスに伝えられ、各種の舞踊技法がさらに発展を遂げたという歴史に背景があると思われる。

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バレエのお姫様としてのバレリーナ


 バレリーナはバレエの基本的な構成要素たる踊り手であると同時に物語世界のキャラクターでもある。だが、「キャラクターとしての演技は踊りもしくは身振りに限る」というバレエの基本ルールに従っているために、一般の演劇とはきわめて異なる特殊な立場にある。その結果、バレリーナに憑依するキャラクターはお伽話のお姫様や妖精といった幻想的なカテゴリーに属するものが多い。

 特に主役となるプリマ・バレリーナ(イタリア語で「主要な女性の踊り手」を意味する)はお姫様属性のキャラクターが多い。その結果、クラシックバレエの主役=お姫様という印象が一般的に定着している。このプリマ・バレリーナは長い伝統のなかで制服化されたクラシックチュチュと呼ばれる衣裳を着用することが多く、クラシックバレエ独特の「かかとを上げ甲を伸ばしてつま先立ちで踊る」技法がこのバレエのお姫様を特徴づけている。このつま先立ちの技法(ポアントワーク)は物理的な限界ぎりぎりの動きをしながら身体を安定に制御しなければならないバレリーナの技術の困難さを端的に象徴している。

 この結果、バレエのお姫様=バレリーナは王や貴族の血筋ではなくてもなれる「後天的なお姫様」というきわめて特殊な地位を獲得した。すなわちクラシックバレエはその主な演目において主役がお姫様属性であることによって、クラシックダンスの技法を厳しい鍛錬で会得してお姫様の資格を得る──という一種の定番コースを「西洋のお伽話のお姫様」を演じることに憧れを抱く女の子たちに提供している。もちろん、お姫様になりたいからバレエを習いたい──というのは芸術表現を志す動機としては低いと一般的には見なされるかもしれない。しかし、稚い心に突き刺さる動機づけの強さは、大人が並べ立てるおためごかしの高尚な理屈などとは無関係である。

 また、バレリーナは、クラシックチュチュという特殊な衣裳のお陰で演劇界隈においては最も淫靡な姿をしているお姫様でもある。踊りの動きによって容易に股間が覗き視えるその標準仕様を堂々と通用させていられるのは古典的な芸能としての長き伝統に裏打ちされた権威の賜物であり、芸術の名のもとにエロティシズムを正当化させる技が発達した西ヨーロッパならではの洗練された表現形態だと言えるだろう。そして白タイツによって股間の奇怪な輪郭を露わにしたバレエ王子と一緒にバレリーナが踊るパ・ド・ドゥは、裸体の男女の交わりとはまた次元の異なる象徴的な性行為を観衆に提供している。この精巧ともいうべき性的な表現行為の当事者になれる立場──これもまたバレリーナを目指す強い動機付けのひとつであることは疑いようがない。

 現在クラシックバレエのジャンルでプロダンサーとして社会的に安定した地位を獲得することはきわめて難しいにもかかわらず、舞踊の分野において頭抜けたレベルでお稽古ごととしてのバレエが普及し、全国各地にバレエ教室・研究所が多数存在するのはこうした背景による。

 ただし、クラシックバレエのバレリーナは均整のとれた容姿と身体能力、複雑な振付を忠実に再生しつつ情緒的な演技をもこなす知的能力、そしてバレエのレッスンを継続的に受けることが可能な程度には金銭的な環境にも恵まれていなければならない。その意味では、バレリーナは現代版の「貴族的な女子」としての基本的スペックを満たしている必要があり、努力すれば誰もがなれる可能性があるお姫様ではない。逆に言えば、バレリーナ──とくに主役級のバレリーナを演じることが許される女の子は相応のスペックの持ち主だということになる。



演劇人形としてのバレリーナ


 バレリーナは物語の演じ手としてはきわめて制約が多い。台詞を言うことは禁止されている上、踊り以外の演技はごく限られた種類の身振りがせいぜい。そして踊りの内容も予め精密にデザインされた部品を規則に沿って組み合わせたもので、機械的な印象すらある。さらに言えば、振付というプログラムに沿って動く操り人形のようにも視える。だがバレリーナのそうした自動機械のような側面は、生き物と無機物の境界を揺れ動きながら綱渡りする存在としての印象をより強調する作用をもっている。

 バレリーナの人形のような印象には定番の衣裳であるバレエタイツやポアントシューズも影響を与えている。バレエタイツは皮膚の色や体毛を隠蔽し、脚の表面を滑らかで均一な質感へと置き換える。これは無機物としての印象を強める。またポアントシューズは足裏の面積を狭くし、足指の機能を封じて、歩行を不安定にする。それは生物的な柔軟さをもたない人形特有の不安定さ──バランスを失うとたちまち倒れてしまうもろい印象を形作る。

 だが、血の通った人形としてのバレリーナはクラシックダンスの厳しい制約の中で奔放とも言える自由さを発揮する。脚の軸を90度外側に外旋することによって股関節を通常ではあり得ない範囲まで自在に動かすことができ、つま先立ちのままでバランスをとりながらすばやい回転、高い跳躍などを含む複雑な動作をこなす。高度な肉体の鍛錬の裏打ちがあってこそではあるが、バレリーナは人為的な制約を与えられたことによって、その制約の中において最大限の自由を極める偏執的ともいえる運動能力を得るに到った。それはつねに演劇人形としての「死」──踊りが形作っていた幻想世界の破壊──を意味する転倒の危険性に囲まれた中でぎりぎりの、しかしそれゆえに鮮やかな「生」を保つための能力でもある。

 ヒトとしての自然な行動を削ぎ落とされた上で舞踊劇を演じる人形として再構築されたバレリーナの人為的な肉体は、ヒトの内部に渦巻く情念──自身で意識できる感情よりももっと奥深くにある衝動を可視化する。なぜなら、バレリーナはその極端ともいえる演劇人形としての「かたち」を維持しつづける(=踊る)だけで精神集中を強いられており、言語的思考からも遠ざかっている。それはつまり生物としての原初の次元──個体としての自意識をもたずに世界そのものと融合している状態──に接近している状態だと言える。彼女の意識と無意識の境界面を駆け巡っているのは、興奮・緊張・恐怖・恍惚など基底的な情動の目まぐるしい移り変わりと連鎖だろう。そんな中、言葉や表情では到底表現しきれない濃密な生命エネルギーが、踊るバレリーナの肉体から洩れ出ては滴り落ち、あるいは放散される。言い換えるなら、それはバレエの厳しい枠組みに縛られているからこそ滲み出てしまうバレリーナの生々しい魂の分泌物であり、その場で共有されている文脈によっては強烈なエロティシズムの芳香となって観衆の鼻腔を刺戟することになる。


バレリーナの三層構造の股間


 バレリーナはその身体の動作・ポーズによってほぼバレリーナ「らしさ」を表現可能だが、爪先立ちをするためのポアントシューズを履いてさえいれば、キャラクターがバレリーナであることを象徴的に記述することができる。また、バレエ用のタイツもバレリーナとしての属性を象徴するものとして使える。バレエ用のタイツは標準的なストッキングよりはやや厚手だが、皮膚の色は透ける程度のものがよく使われる。一般的には専用の薄い下着(ショーツ)の上にバレエタイツを穿き、その上にレオタードないしチュチュなどの専用衣裳を着用する。つまり、バレリーナの股間は下着+バレエタイツ+衣裳の股間部分(ツン)の三層構造となっている。この三層構造こそがバレリーナの衣裳の最大の特徴であり、つま先立ちのためのポアントシューズに匹敵する独自性をもっている部分でもある。

 それというのも、一般的な衣服の構造としてこのような着脱が難しい方式はあり得ないものであり、あくまでも演劇の衣裳──短期間だけ着用する衣服──だからこそ成立している構造だといえる。ただこの三層構造は踊りの動きによって衣裳がずれないようにする意味もあるが、重要な点は、股間も衣裳の一部で覆われているという主張を成立させることにある。下着の上に半透明のタイツをはいた状態では下着が視えてしまう危険性があるが、タイツの上にもう一枚「衣裳の一部」を重ねることで、股間そのものも衣裳によって被われているという理屈になる。ただし、実際にはその股間の状態は下着のそれと視覚上は大きな差異はないので、下着が露出しているかのような視覚的効果が生じるのもまた事実である。

 この三層構造にさらにスカートが加わった四層構造になるとそれは単に下着との視覚上の相似というだけではなく、象徴的なレベルでの女性器をバレリーナの下半身に形成することになる。すなわち踊りに伴って開閉する脚によってスカートが揺れ動き、股間が見え隠れするというバレリーナの下半身の一連の挙動は、象徴的なコイトス(男女の性器の結合)における女性側の動きであり、スカートの襞の奥のツンは擬似的な陰唇もしくは子宮口ということになる。このバレリーナが演じる象徴的コイトスの主体は観衆であり、男性観客はその視線そのものを幻想的ペニスとしてバレリーナに挿入し、女性観客はバレリーナと一体化して幻想的ペニスを受け容れるという形で、舞台と観客席の間の壁を超えた仮想の性的な関係性が成り立つ(場合もあろう)。

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